【緊急連載・第2回】イエナプラン削除の真相――長沼豊教育長は判断したのか、それとも従ったのか
- TEAMくらデモ

- 12 分前
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この記事の要点
板橋区の長沼豊教育長は、日本イエナプラン教育協会の事務局スタッフで、同協会認定の「日本イエナプラン専門教員資格」を保持する、日本最高水準のイエナプラン専門家の一人である。
日本初のイエナプラン認定校である大日向中学校(長野県佐久穂町)の初代校長を務めた経歴を持つ。
その専門家がトップに座る教育委員会で、なぜ自らの専門領域の名称が区の計画文書から削除されることを容認したのか。
論理的に可能性は二つ。第一、教育長自身の判断。これなら、専門家としての説明責任がある。第二、他者の判断で削除された。これなら、「誰が」「どのような根拠で」が問われなければならない。
どちらの可能性であっても、区民への説明が必要である。
長沼豊教育長とは何者か
板橋区の新しい教育計画「MIRAI SCHOOLいたばし ―教育ビジョン2035―」の素案からパブリックコメントを経て策定版が公表される過程で、「イエナプラン教育」という固有名詞が事実上すべて削除された――これが前回(第1回「消された『イエナプラン』」)で確認した事実関係である。
長沼豊氏は2024年7月、坂本健区長の打診を受けて板橋区教育長に就任した。就任時の新聞・専門誌のインタビューでも紹介されているように、その経歴は教育学者としても実践者としても極めて充実したものである。
公開されている経歴によれば、長沼氏は1986年から学習院中等科教諭を13年、1999年から学習院大学文学部教職課程助教授、准教授、教授を経て、2013年に新設された同大学文学部教育学科の教授となり、2017〜2018年度には教育学科主任も務めた。教科外教育(特別活動、ボランティア学習、シティズンシップ教育)を専門とし、日本シティズンシップ教育学会会長、日本特別活動学会理事・顧問、日本部活動学会副会長などを歴任している。
そして、今回の論点に直接関わる経歴として、以下の三点が決定的に重要である。
①2022年4月から2024年3月まで、長沼氏は茂来学園大日向中学校(長野県佐久穂町)の初代校長を務めた。大日向中学校は、日本に二校しかないイエナプラン教育協会認定校のうちの一つである大日向小学校の中学校部として2022年に開校した、イエナプランに基づく中等教育の実践校である。その初代校長として、イエナプランに基づく学校づくりをゼロから主導した。
②長沼氏は、一般社団法人日本イエナプラン教育協会の事務局スタッフを務めている。同協会は日本におけるイエナプラン教育の認定と普及を担う中核組織であり、その事務局スタッフは日本のイエナプラン運動の中枢に位置する。
③長沼氏は、同協会認定の「日本イエナプラン教育専門教員資格」を保持している。この資格は、日本国内で行われる年間240時間のイエナプラン教育専門教員養成研修を修了し、さらに協会主催の研究実践発表会で実践または研究発表を行い、協会特別顧問および理事の審査で承認された者にのみ与えられる。日本でこの資格を持つ教育関係者はごく限られており、その最上位に位置する専門家の一人が長沼氏である。
就任時の言葉と、素案のコラムの一致
2024年7月に教育長に就任した長沼氏は、教育専門紙のインタビューで繰り返し一つのフレーズを口にしていた。
「教育の最上位の目的は、人が幸せに生きるため」――。
この表現を、素案のコラム②と読み比べてみる。
「イエナプラン教育の理念はとてもシンプルで、『人が幸せに生きるための教育』をめざすものです。」
両者は、完全に重なっている。長沼教育長の就任時の言葉は、イエナプラン教育の理念そのものであった。そして素案のコラムは、長沼教育長自身の教育観をほぼそのまま反映したものとして読むことができる。
策定版の区全体のキーメッセージとして残った「教育は人が幸せに生きるためにある」というスローガン自体も、イエナプラン教育の理念に由来するものである。理念は残った。しかしその出所を指し示す固有名詞「イエナプラン」は、策定版では消えた。
これほどの専門家がトップに座りながら、なぜ自らの専門領域の名前が、区の最重要教育計画から消えることを容認したのか。
論理的に、可能性は二つしかない
冷静に考えてみよう。専門家としての経歴・現職肩書・専門資格を持つ教育長のもとで、専門領域の固有名詞が計画文書から消える。このことの可能性は、論理的に二つしかない。
第一の可能性:教育長自身の判断ないし了承のもとで削除された
この場合、問うべきことは明確である。なぜ素案に書いたものを、策定版で消す必要があると判断されたのか――その理由を、区民と板橋区議会に説明する責任が生じる。
しかも、その変更はパブリックコメントという正規手続きを経た後の変更である。パブリックコメントに寄せられた意見を踏まえた合理的な変更であるならば、その意見と変更理由を区民に明示する義務がある。具体的かつ合理的な説明が求められる。
また、日本イエナプラン教育協会の事務局スタッフ・専門教員資格保持者として、区の計画からイエナプランの名を消す判断をしたことについて、協会や全国のイエナプラン関係者に対しても説明が必要になるはずである。日本のイエナプラン運動にとって、公立自治体の教育ビジョンに「イエナプラン教育の要素を取り入れる」と明記されることの意義は小さくない。それが消えることの意味もまた、小さくない。
第二の可能性:教育長の意に反して、他の誰かの判断で削除された
この場合、問いは別の方向を向く。日本イエナプラン教育協会の事務局スタッフであり、専門教員資格保持者である教育長の判断を超えて、イエナプランの扱いを変更できる人物とは誰なのか。
板橋区の教育政策の最終責任者は教育委員会である。その事務方の長が教育長である。計画の柱に位置づけられていた教育思想の固有名詞を、教育長の意に反して削除できる立場の人物とは、論理的に限られる。区長部局、あるいはそれを超える政治的圧力、ということになる。
もしそのような「圧力」があったのであれば、それは教育委員会の独立性という、戦後日本の地方教育行政の根幹に関わる問題である。教育委員会の独立性は、戦前の教育が政治の道具にされた反省から、戦後に確立された原則である。その原則が侵害されているのだとすれば、それは極めて重大な事態である。
どちらの可能性であっても、説明責任がある
第一の可能性であっても、第二の可能性であっても、区民が納得できる形で説明されるべき性質の出来事である。
ところが現時点で、板橋区は素案から策定版への変更理由を公にしていない。文教児童委員会に対しても、3月24日まで知らされなかった。これは、長沼教育長が就任時に繰り返し強調してきた「開かれた教育行政」という理念からは、遠く隔たった手続きである。
くらデモは、長沼教育長ご自身に、以下の点についての説明を求めたい。
パブリックコメント後の「最終的な精査過程」で、なぜ「イエナプラン」の文言が削除されたのか。その判断は誰のものか。
日本イエナプラン教育協会の事務局スタッフ・専門教員資格保持者としても、この削除をどう受け止めておられるのか。
パブリックコメントに「イエナプラン教育の要素」の記述を前提として意見を寄せた区民に対して、どのように教育長として説明責任を果たされるのか。
現在の議会のパワーバランスでは、この件は穏便に済まされることになるだろうか。 本来であれば、これらの問いに対して、教育長自身の言葉での説明が必要だ。あるいは説明を回避したままこの事態が進むのであれば、それは教育行政のトップとしての責務が問われる段階に至ってしまうと言わざるを得ない。教育庁の道義的責任が問われている局面だ。
しかし、話はここで終わらない
ここまでが、長沼教育長の立場と責任についての論点である。
しかし本当の問いは、なぜ削除が必要だったのかという、削除の動機そのものにある。ここには、単なる計画文書の文言変更を超えた、板橋区政の大きな構造が関わっている。
実は、削除のわずか3週間前、区議会では区の計画の根本的な矛盾に触れる質疑が行われていた。そしてその質疑の核心は、板橋区が124億円を投じて進めようとしている大規模事業と、直接に関わっているのではあるまいか。
イエナプラン削除問題の真相は、この大規模事業との矛盾にある――私たちはそう考えている。次回、この問題に切り込む。






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