【緊急連載・第3回】124億円をかけて、イエナプランができない小中一貫型学校を新設するつもりなのか?――1人の区議の質問が浮き彫りにしたもの
- TEAMくらデモ

- 1 日前
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この記事の要点
日本イエナプラン教育協会の認定校要件は、「原則として異年齢学級を採用すること」と明記されている。
異年齢学級(3学年混合のファミリーグループ)のような抜本的な組織改編は、小規模校でこそ機動的に実践できるというのが、国内外の実践が示す原理である。
板橋区は志村小学校と志村第四中学校を統合し、総事業費約124億円(さらに追加経費が判明中)の施設一体型小中一貫校として改築する事業を進めている。これはイエナプラン実践には根本的に不向きなタイプの学校である。
区議会では、民主クラブ(当時)の中妻じょうた区議が3月10日の予算委員会で、区の計画の核心に迫る質疑を行った。区側は明瞭な答弁ができなかった。一人の区議の質問が、区の計画の構造的矛盾を浮き彫りにした。
計画に「イエナプラン」と書けば、今後もこの矛盾を問われ続けることになる。削除は、この構造的矛盾への対応ではなかったか――論理的推論として、この仮説を提起したい。
日本イエナプラン教育協会の認定校要件
板橋区の教育についての新計画「MIRAI SCHOOLいたばし ―教育ビジョン2035―」の素案からパブリックコメントを経て策定版に至る過程で、「イエナプラン」の固有名詞が事実上すべて削除された――。前回(第2回「専門家の沈黙」)で指摘した通り、この削除をイエナプラン専門家の一人である長沼豊教育長が容認したことの説明は、いまだ区民に示されていない。
では、なぜ削除が必要だったのか。その動機を理解する鍵は、削除のわずか3週間前、区議会の予算委員会で一人の区議会議員によって行われていた核心的質疑にある。
まず、その質疑の意義を理解するために、日本イエナプラン教育協会が公表している認定校要件を確認しておきたい。
同協会のホームページに掲載されている認定基準には、こう明記されている。
「(3)原則として異年齢学級を採用すること。中等教育以上においては異年齢学級もしくはそれに準ずる仕組みを採用すること。」
異年齢学級――これがイエナプラン教育の根幹である。通常3学年分の子どもたちで構成される「ファミリーグループ」と呼ばれるクラスを、学校の基本単位に据える。年齢差のある子どもたちが互いに教え合い、学び合う。毎年、年長の子どもたちが進級し、新しく年少の子どもたちがグループに加わる。この組織原理こそが、イエナプラン教育を他の教育思想から区別する核心なのである。
したがって、「イエナプラン教育の要素を取り入れる」と掲げる以上、異年齢学級の扱いは避けて通れない論点になる。これは思想の問題ではなく、認定要件として明記された事実の問題である。
一人の区議が、予算委員会で核心を突いた
2026年3月10日、板橋区議会の予算委員会文教児童分科会で、民主クラブ(当時)の中妻じょうた区議が、この核心に迫る質疑を行った。ご自身のブログ「給食よ、食材価格高騰に負けるな!――予算委員会文教児童分科会レポート」(2026年3月11日付)で、詳細が公開されている。
中妻区議は、素案の「多様な学び推進プラン2028」に盛り込まれていた「イエナプラン教育の要素を取り入れたモデル校の選定・研究」について、三つの点を質した。
第一、モデル校で具体的に何をやるのか。カリキュラムや学級編成の内容を先に示さなければ、「モデル校選定」は形式的なものになる。
第二、イエナプラン認定校の最低条件である異年齢学級(ファミリーグループ、3学年混合)を実施するつもりがあるのか。
第三、異年齢学級は大規模校では実践のハードルが高く、小規模校のほうが機動的に動ける。新河岸小学校や高島第五小学校のような小規模校を最初のモデル校に指定すべきではないか。
この質疑は、板橋区議会において初めてと言ってよい、イエナプラン教育の実践的要件に即した本格的な議論だった。中妻区議は、異年齢学級が認定要件の核心であることを正確に把握したうえで、「イエナプラン教育の要素を取り入れる」と掲げた区の計画に対して、その具体的な実現可能性を問うた。教育施策の審議として、本来あるべき水準の議論がようやく始まった――そう評価できる、極めて建設的な質疑だった。
中妻区議は自身のブログで、区の答弁を次のように記録している。
「いずれも明瞭な答弁は得られませんでした。」
異年齢学級と大規模校――構造的な相性の悪さ
区が明瞭に答弁できなかったのには理由がある。
中妻区議の質問の第三点、「小規模校をまずモデル校に指定してはどうか」という提案は、極めて正鵠を射た実践論である。異年齢学級(3学年混合のファミリーグループ)は、学校全体の組織原理を従来の学年別学級から抜本的に組み替える実践である。時間割、教員配置、教室の使い方、評価方法のすべてが、学年別の枠組みから異年齢の枠組みへと再設計される必要がある。これを学校全体で実施するには、教員集団の合意形成、保護者への説明、地域社会との調整など、無数の調整が必要になる。
だからこそ、この実践は小規模校でこそ機動的に実現できる。学級数が少なく、教員組織も小回りが利く。保護者数も限られ、丁寧な対話が可能である。日本初のイエナプラン認定校である大日向小学校が小規模の私立校であること、二校目の福山市立常石ともに学園が統合によって生じた既存の小規模施設を活用したものであること、オランダにおけるイエナプラン校の多くが中小規模であることは、いずれもこの原理から理解できる。
逆に言えば、大規模校・施設一体型の新築校は、イエナプラン実践からは最も遠いタイプの学校である。
ここに、志村小・志四中の統合新築計画が重なってくる
板橋区は、2026年度から進めようとしている最大の学校施設事業として、志村小学校と志村第四中学校の統合新築を掲げている。
「MIRAI SCHOOLいたばし―学校施設づくり2035―」では、「板橋・常盤台・志村・高島
平・赤塚の5地域へ1校程度を目安に小中一貫型学校を設置する」方針が打ち出されている。
その志村地域の拠点校として位置づけられているのが、この志村小・志四中の統合事業である。施設一体型小中一貫校として新築され、総事業費は当初試算で約124億円。さらに、掘削工事中に想定外の地下水湧出が発覚し、約1億6450万円の追加経費が判明している。
そして、素案の事業計画書をもう一度よく見ていただきたい。事業番号002「小中一貫教育の推進」の令和8年度以降の計画に、こう書かれていた。

つまり素案の構図はこうだった――「板橋区全体でイエナプラン教育の要素を推進する。その中核事業として、志村小・志四中の統合新築を進める」。
ここに、論理の破綻がある
124億円を投じて施設一体型の大規模小中一貫校をつくることと、異年齢学級を基本とするイエナプラン教育の実践は、実践論として矛盾する。
異年齢学級のような抜本的な組織改編は、大規模校では機動性を失う。統合新築校は、規模・組織構造・設計思想のいずれにおいても、イエナプラン実践からはむしろ遠いタイプの学校になる。
これは、誰かがどこかで意図的に仕込んだ矛盾ではない。単純に、区の掲げる教育理念と進めようとしている施設事業の方向性が、最初から噛み合っていなかった――という構造的な問題である。そしてその構造的な矛盾が、予算委員会で計画の具体像を問われた際に、区側が「明瞭な答弁ができない」というかたちで表面化した。答えられなかったのは、おそらく答えが存在しなかったからである。大規模統合一貫校構想のもとで、どのようにイエナプラン教育の要素――特に異年齢学級――を実現するのか。その具体像を、区は持ち合わせていなかっただけなのではないか。
邪推ではなく、論理的推論として
予算審議の3月10日から、策定版公表の3月31日まで、わずか3週間。この間に板橋区は――より正確には板橋区の誰かは――一つの選択を下した。「イエナプラン教育の要素を取り入れた教育活動の展開」という文言を素案から削除するという選択である。
ここから先は、邪推ではなく論理的推論として述べたい。
計画に「イエナプランの要素を取り入れる」と書いてしまった以上、異年齢学級などの具体像を問われれば、区は答えなければならない。そして大規模統合一貫校構想のもとでは、その具体像を描くことは困難である。
この状況で、計画に「イエナプラン」の名を残し続ければ、今後も区議会で繰り返し、計画の具体的な実現可能性を問われ続けることになる。124億円を投じる志村小・志四中の統合新築と、イエナプラン教育の実践原理の矛盾が、議論の焦点として繰り返し浮上する。
文言を消せば、この追及は――少なくとも名目上は――かわすことができる。
これが削除の動機ではなかったか。そう推論することが、集めうる事実関係から最も蓋然性の高い説明である、と私たちは考える。 もっとはっきりと言っておこう。板橋区教育委員会は、板橋・常盤台・志村・高島平・赤塚の5地域へ、1校程度を目安に小中一貫型学校を設置する計画を立てているが、それを実現するには、「イエナプラン」の看板を掲げることは逆効果だということではないか。
長沼教育長に問いたい三つのこと
長沼豊教育長は、日本のイエナプラン教育の専門家として敬意をもって受け入れられてきた人物である。大日向中学校校長を経て公立自治体の教育長に就任したことは、多くのイエナプラン関係者から大きな期待をもって迎えられた出来事だった。だからこそ、いま何が起きているのかについて、教育長自身の言葉による説明が必要である。
「イエナプラン教育の要素を取り入れた教育活動の展開」という素案の文言を了承したのは、ほかならぬ長沼教育長であったはずだ。そしてパブリックコメント後に、策定版でこの文言が消えることを了承した――あるいは了承せざるをえなかった――のも、長沼教育長である。
以下の三点について、ご自身の言葉での説明を求めたい。
第一、日本イエナプラン教育協会の事務局スタッフ・専門教員資格保持者として、この削除をどう受けとめておられるのか。
第二、パブリックコメントに「イエナプラン教育の要素」の記述を前提として意見を寄せた区民に対して、どのように教育長として説明責任を果たされるのか。
第三、124億円を投じる志村小・志四中の統合新築が完成したとして、その新校舎で、イエナプラン教育の中核要素である異年齢学級(ファミリーグループ)を、具体的にどのように実現されるおつもりなのか。実現できないのだとすれば、それは計画そのものの見直しを意味するのではないか。
説明がないまま、あるいは説明を回避したままこの事態が進むのであれば、それは教育長の資質そのものが問われる段階に至ったと言わざるをえない。
124億円をかけて、イエナプランができない小中一貫型学校を新設するつもりなのか?
くらしにデモクラシーを!板橋ネットワーク(くらデモ)は、志村小学校・志村第四中学校の統合新築問題について、情報公開請求と事実に基づく検証を積み重ねてきた。総事業費124億円超、想定外の地下水湧出による追加経費、在校時からの長期工事と通学区域変更、「6年の工期」という区の説明が文書上の根拠を欠いていたことなど、これまで明らかになってきた事実は数多い。
今回のイエナプラン削除問題は、これまで財政・手続面から問題を提起してきた志村小・志四中問題に対して、教育理念の側からの検証という新しい局面を開いた。区が掲げる教育理念と、進めようとする学校施設事業のあいだに、根本的な矛盾がある。矛盾を取り繕うためにパブリックコメント後に重要な文言が削除されたのだとすれば、それは住民自治と教育行政の透明性にかかわる重大な問題である。
区議会において本格的な教育実践論の議論を切り拓いた、民主クラブ(当時)の中妻じょうた区議の誠実で的確な質疑に改めて敬意を表するとともに、区民一人ひとりに、この静かに進行している重大な変更に関心を寄せていただくことをお願いしたい。 (緊急連載・完)





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