反響があればいいのか? 板橋区公式Xの炎上問題
- はむた@こやぎ村

- 9月8日
- 読了時間: 4分
物議をかもしているのは、板橋区の公式Xが9月1日に配信した人気アニメとのコラボイベント予告動画です。
区は抗議の声を受けて、9月3日に追加情報を出しました。
人権無視の“フェイク情報”
動画の中で特に問題視されたのは「税をささげる者は権利を得られる」というフレーズでした。アニメの登場人物のセリフであることを考慮しても、行政の区公式アカウントで発信されること自体がある種のメッセージになっており、権威性を帯びています。「納税しないと権利を与えないぞ」という“お達し”のように受け止める人もいました。
ネット上の反応には、「納税しない者に権利が与えられないのは当然」などと区を擁護する意見もありました。納税と引き換えに権利が与えられるというのは誤った考え方ですが、板橋区は結果的にこういった錯誤や偏見にお墨付きを与えています。板橋区は重大な誤りを含むフェイク情報を拡散し、世間に偏見を広めているのです。
「反響」があればそれでいいの?
SNSではいかに注目を集めるかが勝負です。「いいね」がたくさん付いたりすると、人気がある投稿だと自動判定されて”おすすめ” に表示されやすくなり、ますます拡散されていきます。投稿への反響は広告収入に換算され、社会的影響力や知名度へと変換されます。
板橋区のイベント予告にはSNSの仕組みが最大限の効果を発揮するように、「ティザー広告」というマーケティング手法が用いられていました。情報を小出しにして関心をひきつけるやり方です。人気作品とコラボしたイベントを実施することをほのめかしつつ、どこで何をするのかは具体的に示さないことで、話題になるように仕向けたのです。
狙い通りにファンの間では大いに盛り上がっていたようです。一方、作品を知らない人たちは混乱と困惑のうちに置いてけぼりにされました。私などは公式アカウントが乗っ取りにあったのではないかと、不審に思ったほどです。
抗議を受けて区がおこなった二度目の投稿では、「予想を超える反響」といって悪びれる様子もありませんでした。市民による異議申し立てに真摯に耳を傾けるどころか、それらの声を「反響」としてひとくくりにし、養分にしてしまう。いわゆる炎上商法です。たちの悪いインフルエンサーと大差ないことを板橋区の広報はしているのです。
住民のための広報へ
行政の広報は原則として、①事実を正確かつ迅速に伝えること②誰にでも理解できる平易な内容であること③すべての住民に等しく情報が行き渡ることが求められます。災害時の緊急速報を例にとるとわかりやすいでしょう。これらの条件を満たさなければ住民の生命・財産を守ることはできません。平時であっても、住民の利益や福祉を第一の目的としていることに変わりはないのです。
そう考えると、「ティザー広告」の手法を用いた板橋区のイベント予告は、行政の情報発信のあり方として適切ではないと言えそうです。不明瞭な情報開示のしかたは混乱を招き、不信感すら抱かせます。特定のエンタメ作品に関する予備知識がないと読み解けない内容となっていることは、排他的であるという点で行政の発信情報としてはふさわしくありません。
板橋区は二度目の投稿で「わかりにくさ」についてお詫びをし、イベントの情報を追加で出しました。ただ、「わかりにくいこと」がなぜ問題なのかは「わかっていない」ようです。基本的人権を軽視していることにも触れていません。“情報が足りないと苦情が出たので情報を付け足しました”という程度の修正にとどまっているのです。「税をささげる者は権利を得られる」というフレーズを含む最初の投稿は、いまだに削除も差し替えもされないままです。
行政の広報はどうあるべきか、これを機会に考えてみる必要があるのではないでしょうか。板橋区の情報発信が商業主義に偏らず、SNSのアテンションエコノミーに毒されずにすむにはどうしたらいいか。区民のために、真に「誰ひとり取り残さない」広報であるためには、何が必要なのか。区の職員だけでなく区民と区議(区議会)がともに考えていくことを、私は区民の一人として望みます。








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