本記事は「誰のための再開発―大山町クロスポイント」（2020年8月12日）の続報である。
不安を感じたアスベスト除去工事の説明会
2020年7月21日、大山町クロスポイントの再開発に伴い、31棟の既存建築物の解体に着手するべく、再開発組合と解体施工会社による説明会が開催された。
説明会では、最も慎重な扱いが求められるレベル1の建物が明らかにされた。会場からレベル2や3の建物の公表がないのはおかしいとの意見が出された。それに対して業者は、該当する全ての建物について調査していると答えた。区にはアスベストの事前調査報告書を提出しており、報告書の実物を示しながら適正に処理すると述べていた。しかし、その場で内容は示さなかった。
2020年7月30日、地元の住民団体が連名で板橋区と再開発組合に質問書を提出。再開発組合は2020年8月18日に、調査した原本を閲覧可能と回答した。
事前調査報告書の原本に多数の疑問点
アジアプレス・ネットワークのブログ記事「東京板橋の再開発でアスベスト飛散の危険性 調査ミスでも25日から解体強行か（2020年8月25日）」によると、2020年8月21日に専門家がアスベストの事前調査報告書の原本を確認したところ、多数の疑問点が発見された。調査漏れや資材の判定に違いがあると、住民の健康に重大な被害が出ることが懸念されるが、それでもなお区は届け出を受理するだけの構えを見せている。
やる気が見えない解体施工会社や区の対応
2020年8月24日、近隣住民を対象とした説明会の開催について、施工会社と区環境政策課に問い合わせた。施工会社は「再開発組合から指示がない以上、開催の予定はない。ただし、求められれば説明はする」との回答。区の環境政策課は、「区内の建築物等の解体工事に伴うアスベストの飛散防止に関する指針（※）はあるにはあるが、通常はしなくともよい」とのことだった。これでは指針があっても事実上無意味になってしまう。 ※ 板橋区に置ける建築物等の解体等工事に伴うアスベスト等飛散防止対策とその周知に係る指針
2020年8月25日、アジアプレス・ネットワークのブログ記事がyahooニュースなどで広まり、杜撰なアスベストの事前調査内容が広く世間に知られるようになる。板橋区は午後から夕方にかけてこの問題に対する打ち合わせを行い、夕刻になってから急に、この案件は環境政策課ではなく都市整備部拠点整備課で扱うことが決まった。
拠点整備課は再開発組合を指導する部局ではあるが、アスベストの規制はできないと私たちは危惧する。複数の関係者の問い合わせに対して、拠点整備課はこれまで「法令を遵守してすすめる」、「記事の内容は再開発組合に照会している」と答えている。だが、調査はすでに終わっている。記事の内容の是非については、調査報告書を精査すればすぐに判明するはずだ。
8月27日、都市建設委員会が開かれた
この件は、2020年8月27日の区議会都市建設委員会において審議された。都市建設委員から質問された拠点整備課長は、報道は把握していると認めたものの、その内容には触れず、「適正に処理するよう関係部署と連携して進める」との形式的な答弁に終始した。再調査の要求にも否定的な答弁を繰り返した。住民の安全安心への配慮が残念ながら感じられなかった。
いのちと暮らしを守る行政を
クロスポイント再開発事業は組合と民間企業が施工するが、私たちの税金が投入される区の事業でもある。
今回の解体現場は、多くの買い物客で賑わう大山ハッピーロード商店街の中央に位置する。近くには小児科医院や保育所もある。区民の安全安心のために、アスベストの事前調査報告書の再検討を信頼できる第3者の目を入れて行なうこと、また場合によっては再調査も必要ではないだろうか。この問題は今や全国的に報道され、「大山アスベスト問題」となった。板橋区長は近隣住民のみならず、区民全体への説明責任を果たすべきではないだろうか。
解体現場付近に居住し、商店街に店を持つAさんは、「私は道路拡張のため、現在の店舗は立ち退かなくてはならない。自宅のすぐ近くの解体現場が調査不十分で怖い。おまけに店も不安感で客が減ったらどうしよう」と話す。いのちと暮らしを守る行政としての信頼度が問われている。
