第1回 「教育の板橋」の本当のところ、第2回 板橋区教育委員会が目指すもの の続きです。今日も板橋区の教育施策にまつわる質問に答えていきます。
板橋区の小中一貫教育ってどんなものですか?
2019年の暮れに、来年度から小中一貫教育を始めるという話が突然出てきました。板橋区の小中一貫教育は、中学校を核にしてエリアを作る、エリアの中で教育目標を共有する、大きな「子ども像」を共有する、方針を共有するとかして小中一貫教育を進めなさいというのです。
小中一貫教育といわれると、ある敷地に小学校と中学校があって、そこで一つの組織の中で行われますが、板橋区はとりあえずそれはせずに、現行の小学校と中学校で9年間で固まるような教育を考えろというエリア型の小中一貫教育で連携型と言われるものです。
なぜそうすることがいいのかというと「板橋区では、学校教育の使命を、子どもの安心・安全に過ごすことのできる居場所をつくること、子どもたちが自己実現を達成するための確かな学力の定着・向上を図ることと捉え、その手段の一つとして、学びのエリアを核とした小中一貫教育を推進します」と『教育の板橋』に書いてあります。
どんなことが期待できるのかというと、1番目は「中一ギャップ」の解消、2番目は、小学校の高学年で専科制を行って中学校での形に慣らさせる、3番目は共通のスタンダードを徹底していこうということのようです。それが本当に可能なのかというのが、僕の疑問ですが。
たとえば「中一ギャップ」とは小学校から中学校に上がった時に、人間関係が今までと変わり、学習の仕方も変わるのでギャップが生まれ、学校不適応になるというものです。しかし、文科省の国立教育政策研究所が作ったパンフレットでは「中一ギャップ」ということばに明確な定義はなく、その前提となっている事実認識(いじめ・不登校の急増)も客観的事実とは言い切れない、ということが書かれています。「中一ギャップ」があるから小中一貫教育だというのが実は非常に安易ではないかということです。
「板橋区子ども若者計画2021」で、不登校になった子どもたちにアンケートを行っていますが、不登校のきっかけは友人関係が52.9%、それに続くのが生活リズムの乱れ、勉強が分からない、先生との関係、となっています。中学校でクラブや部活の先輩との関係も22.8%あり、学校で本当に子どもたちに寄り添うとすると、子どもたちの友だち関係にしっかり目を向けて、どうすれば子どもたちがつまずかずに行けるかということを考えていかなければなりません。小中一貫教育は、子どもたちが課題を抱えている中で、その課題に正対した処方箋にならないと考えられます。アンケート結果でも中学校に上がっての不安と新規不登校との相関はみられません。
昨年度から小中一貫教育を始めるはずでしたが、一学期はコロナで休校だったのでなにもできず、夏休み中からぼちぼち動き始めてはいます。まず中学校の先生が小学校に教えにいこうということになり、中学校に集まって検討会をしたそうですが、なかなか小学校の授業の単元に中学校の先生が入って教えるのは難しかったようです。簡単に小中で乗り入れの授業をするというけど、実は非常に大変で難しいです。やはり教える文化、教わる文化も違うので、これを今の時間ごとの予定の中でやるのは非常に困難があると思います。
高野 毅 先生のプロフィール
定年退職後も引き続き非常勤講師として板橋区の小学校で教える。教師の働き方改革や教員の職場での仲間づくりもライフワークで、教職員組合運動を大切にし、そこでも活躍をしている。「志村小がなくなる?小中一貫校問題を考える会」のメンバー。
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