2020年3月29日、羽田新ルートの運用はじまる
最近、夕方になると飛行機が上空を頻繁に飛んでいる。
おそらく、区民のみなさんは昼間の空の異変にお気づきだろう。これは都心部にジェット旅客機を飛ばすための、国際線増便計画の影響である。
東側は2分間隔、西側は4分間隔強で、15時から19時までの間に高度1,200メートル(フィート換算では約4,000フィート)をジェット旅客機が轟音とともに北から南下するはずだった。しかし現在は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、減便が続いている。
新ルートの離着陸は、住民の反対の声を無視して、2020年3月29日から当初の予定どおり始まった。
政府・国土交通省は、2015年から日本の経済と社会を維持・発展させていくため、国際便の増加を予定していた。成田空港がフル稼働しているので、羽田空港の国際線増便が必要だという。その前提には、オリンピック・パラリンピックをはじめとする、数百万人の外国人観光客の増加見込みがあった。
羽田着陸便の通常ルートは、南風運用時に東京湾を東から西に降下していく。
北風運用時の通常ルートは、東京湾を東南から北西に降下していく。
羽田新ルートは、南風運用時に使われる新設コースで、東京都心部を北から南に縦断して羽田空港に着陸する。年間の風向きデータを見ると、南風運用は4割、北風運用は6割となるようだ。
15時から19時までの4時間は切り替え時間を含むため、実際は3時間に最大90機の国際線と国内線が都心の住宅密集地を降下していく。自宅の窓やベランダから旅客機を目撃した方は多いと思う。
首都圏全体での騒音共有
4月6日に決算行政監視委員会第四分科が開かれた。新ルートの飛行延期を求める松原仁衆議院議員(立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム)に対し、国土交通省の和田浩一航空局長は、腰を抜かすほどの理由を述べた。 なんと、千葉県上空を飛ぶジェット旅客機を関東北部から着陸させるよう、国土交通省が千葉県および関係25市町村と2019年12月25日に確認書を締結していた。ジェット機の騒音を首都圏で共有するためだという。事前に、品川・大田・渋谷・新宿など、新ルート周辺の住民に千葉県とのやりとりを知らせるのが当たり前、このようなやり方は地元自治体にも知らせない独善的な協定だと批判した。
●千葉県および関係25市町
千葉市・市川市・船橋市・木更津市・松戸市・野田市・茂原市・佐倉市・習志野市・柏市・市原市・流山市・八千代市・我孫子市・鎌ケ谷市・君津市・富津市・浦安市・四街道市・袖ケ浦市・印西市・白井市・大網白里市・長柄町・長南町
誰も騒音の被害に合って欲しくない。
コロナ禍による大幅な減便 もはや増便の必要なし
2020年5月18日の参議院決算委員会で、 柳ケ瀬裕文参議院議員(日本維新の会)が質問に立ち、国土交通省の赤羽一嘉大臣や野田航空局長と、次のようなやりとりをした。柳ケ瀬議員は羽田新ルートに賛成の立場で発言していることに注目したい。
日本維新の会 柳ケ瀬裕文議員の質問:
「3.45度で進入することに対して、各所からさまざまな懸念が表明されている。IFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会)のみなさんが出している書面を見た。この角度での進入・着陸に必要な装備を整えると、大きな騒音を発生させる可能性が高い。夏季の数ヶ月間は外気温が40℃近くに達するので、降下角は3.8度近くなる。ほとんどのパイロットが、今まで経験したものとは大きく異なる角度で進入することになる。」(4分14秒)
「日本のパイロット組合も声明を出している。3.45度での降下は、安全上のリスクが存在し続けることになる。将来的にリスクの緩和を図る必要がある。」(5分43秒)
「進入角度を3.45度に変更した目的は、"騒音対策"ということだが、効果は限定的である。日経新聞(2020/5/4)にも、羽田空港の騒音低減効果は不十分であるとの分析が出ている(75%で十分な改善効果なし、4割弱は悪化)。3.45度は再検討の必要がある。少なくとも気温が高くなる夏場は、3.45度の運用を止めるべき。」(7分00秒)
野田航空局長の答弁:
「羽田空港では新型コロナウイルス感染症の影響により、国内外ともに旅行客が激減し、2020年1月4週と2020年5月4週を比較した場合、国際線は95%以上減の35便、国内線は80%減の週700便となっております。」(13分25秒)
日本維新の会 柳ケ瀬裕文議員の質問:
「羽田。全然飛んでいない。IATA(International Air Transport Association 国際航空輸送協会)が2020年5月13日に、国際線が昨年の水準に回復するのは4年後という見通しを出している。需要がないので都心上空を飛ばす理由がない。羽田新ルートでの飛行は一時停止するべき。」(14分00秒)
赤羽一嘉国土交通大臣の答弁:
「国土交通省は、復興に4年もかかるという立場はとらない。東京オリンピック・パラリンピックも1年後には開催される。観光政策・航空政策の責任者としては、航空業界・観光関連業界がたいへん厳しい状況だから、強力な需要喚起政策を補正予算で計上している。できるだけ早い機会に航空需要を復活させる。」(15分17秒)
2020年6月1日の15時から19時までの運行スケジュールを見ると、国内線の約70便(6割以上)、国際線の27便が欠航である。成田空港もガラガラで、2020年4月12日6時から滑走路1本が閉鎖になった。危険な都心上空を飛行する理由は失われた。それにもかかわらず羽田新ルートは使われ続けている。現在、南風運用時のジェット旅客機は、ほとんどが国内線である。
エアバスA320がカラチ近郊で墜落
2020年5月22日、パキスタン航空の乗員乗客99名を乗せたエアバスA320が、カラチ近郊で墜落した。6月3日現在、原因は調査中である。
ルフトハンザ航空でも、同型機が2015年3月24日にフランスで墜落し、150名が死亡する事故を起こしている。
エアバスA320はLCC(格安航空会社 Low Cost Carrier)にメリットの多い機種である。一機110億円前後の低価格で、およそ180席を確保できる。利用者が比較的少ない路線では空席の割合が抑えられ、人気路線では満席で頻度を増やし売上を伸ばせる。
日本ではスターフライヤーがエアバスA320を使用している。他社は180席で運行しているが、スターフライヤーは150席に抑え空間にゆとりがある。現在は欠航が多いが、毎日1便は東京上空を飛んでいる。それに気づいた板橋区民は、毎日ハラハラしながら空を見上げて暮らしている。
多くの自治体が住民の意思に無関心
羽田新ルートは自治体の了解を得たことになっている。しかし、羽田に近い品川は区議会で反対の決議がなされ、渋谷区は都心低空飛行計画の見直しを求める意見書を提出した。また、港区も別の選択肢を求める意見書の提出をした。住民訴訟の動きもある。
板橋区内でも反対の立場で集会、勉強会の開催、区議会への陳情活動が行われている。ところが板橋区は容認の立場であり、飛行機騒音の独自測定も行っていない。
2020年2月の東京都議会 第1回定例会および予算特別委員会で、小池百合子東京都知事は、和泉なおみ都議会議員(共産党)ならびに白石たみお都議(共産党)から、騒音、落下物の不安、急な降下角度への危険性を考慮し羽田新ルートに反対するよう質されたが、「羽田空港の機能強化は大変重要」であり、「丁寧な情報提供や騒音安全対策の着実な実施を求める」と述べるにとどまった。
宇都宮健児氏は、2020年7月5日の東京都知事選挙に立候補を表明し、「羽田空港新ルート低空飛行の実施に反対する~都民の命と暮らしを守る」ことを明確にしている(「今都政に求められる課題」)。
国際線の需要が復活するまで、国内線および国際線を海から入るコースに戻せないだろうか。また、危険なエアバスの飛行を取りやめることはできないだろうか。不安は尽きない。
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