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執筆者の写真宝田 惇史

舛添要一『東京終了 現職都知事に消された政策ぜんぶ書く』ワニブックス、2020年


東京都政をめぐっては、わかるようでわからない話が多いと思います。

2021年には東京都議会議員選挙がありましたが、板橋区では当選直後に不祥事が発覚し、議員辞職に追い込まれた議員がいることは周知の通りです。「こんなことで板橋区が有名になるなんて…」と悔しい思いをしたのは、評者だけではないでしょう。


では、都政とは何のためにあるのでしょうか。そこで、近年の都政について知る一助になるのではないかと思い、本書をご紹介します。

著者は、前の東京都知事の舛添要一氏。2014年2月から2016年6月まで、わずか2年間の在任となりましたが、その間に実現した政策、やりたかったが叶わなかったことなどが、まとめられています。


そもそも、なぜ2016年に舛添氏が都知事辞任に追い込まれたのか。これも、今考えると不可解な面があります。政治資金の活用や都知事公用車の利用などにおいて「公私混同」があると指摘されたことがきっかけですが、それをテレビのワイドショーで大きく取り上げられたことによって、都議会が一気に知事不信任へ動いていきました。不信任案可決の可能性が高まる中、追い込まれる形で舛添氏は都知事を辞任します。


その詳細を本書で記しているわけではありませんが、舛添氏が指摘するのは「都庁職員の不満」です。「私が都知事に就任する前の20年間にわたる東京都政は『異常』な状態となってしました」と記しています。


1995年に就任した青島幸男知事以降、1999年に就任した石原慎太郎知事、2012年に就任した猪瀬直樹知事が2013年末に辞任するまでの約19年間、「作家出身、かつ、都庁にあまり登庁しない知事」が続いていました。都知事はいわゆる「特別職」のため、定時の勤務時間があるわけではありません。したがって、毎日登庁する義務はなく、石原慎太郎氏は週2・3回程度しか登庁しないことが当たり前だったようです。こうした都知事の勤務体系が続いたことよって、都知事が都庁職員を掌握しきれない状態となった中で就任したのが舛添氏だったのです。


知事の監視もなく、ぬるま湯に浸かって太平を謳歌していた怠け者職員たちには脅威です。一日も早くこの知事には都庁を去ってもらわねばならないと思っても、不思議ではありません。それが、舛添氏自身が記す都知事辞任の背景です。


あくまでも舛添氏の見立てであり、「自身の責任を棚に上げている」と批判することも、もちろん可能です。しかし、東京都庁という巨大組織の中にいわば一人で乗り込んでいった政治家には、こうしたことも起こりうるのだろうと評者は思いました。


現在の都知事である小池百合子氏に対する舛添氏の評価は、とても厳しいものです。新型コロナ対策を理由として自らコマーシャルに出演してきたことを、選挙対策だったのではないかと懸念するなど、評者が日頃感じていたこととほぼ同じでした。


舛添氏は厚生労働大臣時代に新型インフルエンザに対応した経験を持つことから、現状が歯がゆくて仕方ないのだろうということもよく伝わります。東京オリンピック・パラリンピック2020に備えた「都市外交」や「インフラ整備」に力を入れたかったという思いや、若い頃に留学生活を送ったパリの街のような文化・芸術を大切にするまちづくりをやりたかったといった思いも、わかりました。


近年の都知事選挙は、単なる知名度合戦のようになってしまっていますが、やはり、私達の生活に直接関わる地方自治の問題として、きちんと注目していく必要があると改めて感じました。残念ながら、先般の議員辞職のようなスキャンダルがない限りテレビではなかなか取り上げられない都政の動きですが、都議会議員などを通して、日頃から関わっていきたいと思いました。


都政について考えるための第一歩として、参考になる本だと思います。新書判で値段も比較的安価ですので、ご紹介しました。

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