• 桔川 純子(NPO法人希望の種/大学非常勤講師)

やっぱり〈くらしにデモクラシー〉!― 韓国コロナ禍の国政選挙観察記

最終更新: 2月25日

 

韓国の選挙結果を振り返る


 韓国では、2020年4月15日、国政選挙が行われました。フランスやイギリスをはじめとして、選挙を延期した国が47カ国に上るといいますから、あのさなかによく選挙を実施したなあと思います。しかも、66.2%という28年ぶりの高い投票率でした。


 選挙の結果は、与党の共に民主党と、与党系政党が300議席中180議席を獲得して圧勝しました。事前調査でも、新型コロナウィルスへの対応を評価している市民が非常に多く、与党の勝利は予想されてはいましたが、第一野党である未来統合党は、黄教安(ファン・ギョアン)代表が、同じ選挙区の候補者である共に民主党の李洛淵(イ・ナギョン)元首相に大差で負けたり、ほかの地域でも大物議員が落選したりするなど、保守政党は苦境にたたされました。


 知り合いの若者が、「今回は、投票しないという選択はなかった。今が、朴槿恵政権だったらと思うと本当に怖い」と言っていたのですが、多くの人が、「ここでしっかり投票しないと、自分たちの生命も危うい」という危機感を持ったのではないかと思います。


 しかし、与党圧勝といっても、得票率をみてみると、共に民主党(革新)が小選挙区では49.9%、未来統合党(保守)が41.5%、比例区では衛星政党である共に市民党が33.35%(議席数17)、未来韓国党が33,84%(議席数19)ですので、共に民主党が国民の支持を全面に受けているということでもなさそうです。


 これまで、韓国の選挙の結果については、いろいろ分析も出ていますし、すでに一か月半経っていますので、いまさらと言う気もしなくはないのですが、少し違う角度から、選挙後のことにも触れつつ2020年4月15日の選挙を振り返ってみたいと思います。

コロナ禍での選挙運動


 選挙運動期間中は、マスクをつけた候補者が、自分の名前が書いてあるプラカードを持ちながら、駅や市場などに立って黙って頭を下げて挨拶をする様子や、また、有権者と握手のかわりに「ぐう」でタッチしたり、肘と肘でタッチしたする光景が見られました。


 時には、ソーシャルディスタンスが守られていないような場面をニュースで見ることもありましたが、候補者としては、もどかしかっただろうと思います。何しろ、人が集まってはいけないわけですし、近くで話をしたりしてはいけないわけですから。


 韓国の選挙の名物でもある、替え歌とダンスも控えめになっていたましたが、その替わりに、Facebook、Twitter、Instagram、kakaoーtalk(韓国でよく使われているLineのようなアプリケーション)、YouTubeなどが活用され、オンラインの選挙運動の比重が多くなっていました。


 共に民主党のホームページを見てみると、替え歌を使うときの歌の候補(著作権処理をしてある歌なのでしょう)、どこの業者に連絡したらいいのかなど、選対用のマニュアルなどがアップされていますが、今回は、あまり出番はなかったようです。


 しかし、IT先進国の韓国ですから、今回の選挙を契機に、SNSを使った選挙がより活発になっていくのではないかと思います。


 投票日当日はというと、マスク着用が義務付けられ、投票会場の入り口では、体温チェックと消毒、投票する時はビニールの手袋をはめ、十分に間隔を取って並ぶなど、最新の注意がなされていました。投票日は人が集中するかもしれないと、期日前投票を済ませた人も多かったということです。


 韓国では、今回、スーパーで買占めも起こらず、医療人に対しては感謝こそすれ、差別をするというようなことはありませんでした。コロナ禍での選挙は、市民の意識の高さを物語るものだったと思います。

骨抜きになった選挙制度改正と反発する市民運動


 今回の選挙は、2019年12月27日に公職選挙法が改正されてから初めての選挙でした。改正された点は、選挙権年齢が19歳から18歳に引き下げられたことと、準連動型比例代表制が導入されたことです。


 韓国は一院制で、小選挙区比例代表併用制ですが、小選挙区では、死票が多くなるので、民意が反映される比例代表制を導入すべきだという市民団体の強い働きかけがありました。

 

 しかし、大政党は議席を減らす可能性が大きい比例代表制の導入に反対し、国会ではすったもんだの末に、準連動比例代表制が導入されることになったのです。


 改正前までは、300議席中、小選挙区253議席、比例代表47議席だったのが、比例代表47議席のうち、30議席についてだけ、準連動型比例代表制を適用させることになりました。計算方法が複雑なので、ここでは省略しますが、その計算では、政党得票率に重きが置かれ、議席を配分するときには大政党よりも少数政党が有利になるようになっています。


 この制度がそのまま導入されていたら、正義党などの少数政党が議席を確保することができるはずでした。しかし結果はと言えば、準連動型比例代表制を導入した目的とは全く異なるものとなってしまったのです。


 まず、比例区で議席配分率が低くなることを見越した未来統合党が先手を打って、未来韓国党という衛星政党をつくりました。そして、最初はそれを批判していた共に民主党も共に市民党という衛星政党をつくり、比例区でもしっかり議席を獲得しました。


 大政党が法の網をくぐり抜けて裏技を使った結果、2大政党で283議席を占有るすることになり、選挙制度が改正されて恩恵を受けるはずだった革新系野党の正義党は、大きな打撃を受けることとなりました。


 韓国と言えば、市民運動が盛んなことでも有名ですが、この間市民団体はもちろん傍観していたわけではありません。まず、2020年3月12日に25の市民団体が共同で「2020総選挙市民ネットワーク(総選ネット)」を結成し、有権者に多くの情報を提供してきました。例えば、各政党の政策を比較している資料集をホームページからダウンロードできるようにしたり、不適切な発言や法案を提出した候補者の情報などを公開したりしました。


そして、総選ネットでは、選挙の結果を受けて、次のような“警告”を発しています。

「しっかり改革せよ」が国民の選択である

66.2%という高い投票率、成熟した市民参加が際立った選挙

政治の退行と、違憲である衛星政党、二大政党制回帰、選挙制度は改革すべき


『2020総選市民ネットワーク』 写真提供:参与連帯。        3月12日 環境運動連合の前で結成の記者会見をする各市民団体の代表たち         ※スローガンは、「怒ろう、参加しよう、希望をもとう」
『2020総選市民ネットワーク』  写真提供:参与連帯

2020年3月12日 環境運動連合の前で

結成の記者会見をする各市民団体の代表たち

※スローガンは、「怒ろう、参加しよう、希望をもとう」



 選挙後、市民団体は、国会が国政の舵取りをしっかりしていくのか、監視の目を緩めないということを強調しています。選挙前は、衛星政党に投票しないようにしようというキャンペーンを行っていましたが、選挙後は、2大政党が衛星政党をつくったことに猛反発し、選挙管理委員会に衛星政党の当選者を当選無効にするように申し入れました。そして、韓国を代表する市民団体の一つで、総選ネットのメンバーでもある経済正義実践市民連合は、2020年4月17日、「比例用衛星政党の候補者登録は公職選挙法上無効」の訴訟を起こしてもいます。

 

 また、今回の選挙は、選挙権年齢が引き下げられたということもあり、「2020青年総選ネットワーク」がつくられ、キャンペーン活動を行いました。


 韓国の市民団体を尋ねると、若い人たちが多いと驚く人が多いのですが、ここ数年、韓国の市民団体は、大学のサークルを支援したり、組織内に若者のグループをつくったりと、意識的に次世代を育成しようとしてきました。日本でも有名な参与連帯も、青年参与連帯を設立し、積極的に若者の活動を後押ししています。


『2020青年総選ネットワーク』 写真提供:参与連帯。 4月1日 光化門広場の世宗文化会館の横で、「青年有権者宣言」を発表する若者たち
『2020青年総選ネットワーク』 写真提供:参与連帯

2020年4月1日 光化門広場の世宗文化会館の横で「青年有権者宣言」を発表する若者たち


 今回の選挙結果でもう一つ注目したいのは、女性の国会議員が300議席中57議席を獲得し、歴代最多となったことです。特に、小選挙区での挑戦が最多となり、29名の女性議員が誕生しました。


 2020年4月29日には、韓国の女性運動をけん引してきた韓国女性団体連合が「2020年フェミニスト国会を語る」というシンポジウムを開催し、2020年4月15日の国政選挙の評価をしました。このシンポで議論された内容を要約、抜粋すると下記のようです。

  • 政治に挑戦する女性が多くなっているが、女性候補を多く公認したのは少数政党だけだ。大政党が努力すべきである。今後、制度的にも政治への女性の進出を拡大すべきだ。


  • 21代国会は依然として男性、50代と60代、大学院以上の学歴者が多数で'オヤジ政治'が維持された。階級、階層の多様性が見られず、女性議員の場合も高齢化が進んでいる上、社会的に成功を収め、安定した生活を送っている上層部のエリート女性が多い。女性のなかでの多様性も拡大しなければならない。


  • 選挙資金が不足していても、嫌がらせなどから女性候補たちの安全性を確保するために、高い家賃の事務所を借りざるをえず、それが負担にもなっている。


  • 「男女平等」を主張したら、「政治に進出するよりも、結婚して子供を産んで国家に寄与しろ」だとか、容貌についての質問も受けることもあった。性的な暴力を防止する公約などは、これまでになく注目されたが、男女平等の政策をより拡充すべきである。


  • 女性労働者の半分以上が非正規雇用だ。労働市場における差別を点検する必要がある。また、福祉は社会権、市民権の観点から点検されなければならない。 女性運動の中でも、より比重をもって扱う必要がある。 特に、ポストコロナの国家を想像する時、その重要性がもっと大きい。 住居、介護など、現在議論されている災害支援のような福祉でも、血縁、異性愛結婚中心の家族単位が、個人単位に変わらなければならない韓国女性団体連合のHPより要約)。

 韓国では、#MeeToo 運動を推進した女性団体が、政治の場に代表を送り出す活動にも積極的に取り組んでいます。韓国に女性、家族に関わる政策に特化した国家行政機関である「女性家族部」(部は日本の省に当たる)が設立されたのも、民主化以降の女性運動の成果だともいえるでしょう。

国会に一石を投じることができるか ー 少数政党「時代転換」


 国政選挙を目前に、さまざまな新党が設立されました。そのなかでも、若者の声を届け、政策中心の政治を呼び掛ける少数政党が旗揚げしました。名前は「時代転換」。


 現政権も国会も、86世代(80年代に民主化運動に関わった1960年代生まれ)と呼ばれる民主化世代が中心となっています。儒教的な文化が根強い韓国では、組織で先輩世代を飛び越えて何かをしたり、異議を唱えたりするのは、容易なことではありませんし、学閥などの共同体意識が強いなかでは、コネがない若者はなかなか希望する就職もできません。そんな若者の声を届け、政策立案を通して社会を変革していこうという志をもって、政党を立ち上げたのが「時代転換」です。


 共同代表の趙廷訓(チョ・ジョンフン)氏、李源宰(イ・ウォンジェ)氏のお二人は、シンクタンクでの経験も豊富です。特に、李源宰氏は、ベーシックインカムの導入推進派の論客としても有名です。


 今回、政党を立ち上げたというニュースを見たときは、正直言って驚きました。しかし、政党を立ち上げてから、共に民主党の衛星政党と連立し、比例代表として趙廷訓(チョ・ジョンフン)氏を当選させる手腕はお見事でしたし、当選後、共に民主党を離党してから「時代転換」に復党し、新たに国会内に一議席を獲得したことは、「時代転換」の存在感を示したのではないかと思います。


 復党を発表する2020年6月2日の記者会見では、補佐官(秘書)が一人ずつ紹介され、発言するという今までにない斬新な演出がありました。これまで補佐官はあくまで裏方(時には奴隷と言われることもあります)でしたが、ともに政策立案をしていくパートナーであると紹介する趙廷訓(チョ・ジョンフン)氏の記者会見は、権威主義的な国会の文化に一石を投じるものだったと思います。政策通で、イノベーションを試みようとするこの政党が今後どのような化学反応を国会のなかで起こしていけるのか、注目したいと思います。

地域における市民のコロナ禍での生活様式


 新型コロナの対策に成功した要因の一つとして、朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長は、「民主的な市民の力」を挙げ、市民がお互いのワクチンとして作用し、迅速な収束へ導いたと称えています。確かに、韓国のニュースやSNSを見ていると、市民が活発にマスクを作る活動に参加したり、地域の公共的な空間を消毒したりしている様子が紹介されているのです。しかし、極力出歩かないように言われているなかで、一般市民が自分で判断して、活動をすることが難しいのは韓国でも同じです。

写真提供:『恩平(ウンピョン)市民新聞』 3月9日、恩平区社会的経済のハブセンターで恩平区マウル共同体支援センターと地域のネットワークなどが「優しさの分かち合いマスク」をつくる様子
写真提供:『恩平(ウンピョン)市民新聞』

2020年3月9日、恩平区社会的経済のハブセンターで

恩平区マウル共同体支援センターと地域のネットワークなどが

「優しさの分かち合いマスク」をつくる様子


 韓国では、ここ数年、市民運動や政治の場面で、ガバナンスを意味する「協治」ということばがよく用いられるようになりました。日本でも墨田区が2010年に協治推進条例を制定していますが、韓国では「民間協治」という名目で、官民の協働の政策が推進されてきました。


 本格的に始動するようになったのは、ソウル市が2016年に主権者である市民がより政策決定の場に参画していくことを目的とした「地域社会の革新計画」を発表し、取り組みを始めてからのことです。地域のなかでの民主主義が深化していく大きなきっかけにもなりました。


 その後、韓国全国に広がり、現在では、どの自治体でも、協治諮問官、協治支援官という人々が、期間限定(最長5年)の公務員として活躍しています。市民団体の活動家出身の人がその職につくことが多く、中央政府、地方自治体を問わず、多くの公共機関で仕事に就き、コミュニケーションが難しい一般市民と行政との「通訳」という重要な役割を担っています。


 コロナ禍で、ソウル市の協治支援官は、ニュースレターなどをつくって、市民に情報を届けたり、生活や活動を支援したりする仕事をしているそうです。現在、ソウル市にある25の区には、まちづくりなどの中間支援のセンターなどが必ずありますが、市民たちは、そのセンターを拠点として、マスクをつくって地域の必要な人たちに配布する活動をしたりしているそうです。中間支援組織や、市民は協治官を通じて、行政の後押しを受けて安心して活動ができるのです。

 日本の一部のマスコミでは、プライバシーに踏み込んだ監視体制を強化し、強硬に統制したことが韓国の成功要因だという報道をしたりしていましたが、コロナ禍では、韓国市民は、監視をされているというよりは、信頼に足ると判断したからこそ、政府の方針に従っていると表現する方が適切ではないかと思います。南北分断の状況下で、個人を管理するシステムが作られてきたことは確かですが、現在は人権侵害を監視する国家機関、市民団体が権力の監視をしてもいるのです。


 選挙の結果についても、市民の声を代弁するのならば、「とりあえず、今は共に民主党にやらせてあげてるけど、道をふみはずしたら、アンタたちどうなるかよく分かってるよね。」多分こんな感じじゃないだろうかと思います。


 不当に権力が介入したり、何らかの不正が発覚したりしたら、すぐに“うるさい”市民団体の活動家とか、ニュース打破(タパ)やらOhmyNewsなどのインターネット市民メディアや、JTBCなどの民主的と言われるメディアの記者が黙っていないでしょうし、翌日には全国各地から何万、何十万あるいは何百万という市民が光化門広場を埋め尽くすでしょう。


 新型コロナウィルスの対応が少し落ち着いてきた現在では、弁護士、市民団体などが、政策に人権侵害がないかチェックするネットワークをつくって、中央政府、地方政府に申し入れをするようになりました。


 南北分断の状況下で、弁護人」という盧武鉉大統領がモデルになった映画で、ソン・ガンホという韓国を代表する俳優が演じた主人公が、大韓民国憲法第1条を叫ぶ有名なシーンがあります。

大韓民国は民主共和国だ。

大韓民国の主権は国民にあり、すべての権力は国民から生ずる。

主権者である韓国市民が、抜かりなく国家権力を監視しているのだと思います。

おわりにかえて


 コロナ禍の影響で、オンラインによる国際セミナーなども増えており、海外の実践を聞く機会も増えています。先日、世界的なベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校社会科学部地理学科のジャレド・メイスン・ダイアモンド教授の講演を聞きましたが、話のなかで、今後、地球温暖化により、新たな感染症も発生する危険性もあると警鐘を鳴らしていました。


 ライフスタイルを含め、社会の在り方、短期、中期、長期的なビジョンを改めて点検し直す時なのだと思います。まずは、今年のコロナ禍の猛暑を、環境に配慮しながらどう乗り切っていくのか考えないといけないでしょう。私も足元から何ができるのか、考えていきたいと思います。

 また、最後の最後になりましたが、快く写真掲載の許可をして下さった韓国の市民運動を代表する市民団体「参与連帯」、ソウル市恩平区の地域に根付いたローカル市民メディア「恩平市民新聞」には心から感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。


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