• 松原 宏之(立教大学文学部史学科教授)

まちづくりとPTA?―「プロジェクト・マスクデラックス」をやってみた

最終更新: 4月13日


いまどきPTAと聞いて安心する人はむしろ少数派だろうと思います。地域コミュニティをつくるならPTAはひとつの糸口のはずですが、なかなかそうは行きません。でも、ものはやりようということはあるかもしれません。


うっかり会長職を引き受けてしまったPTAでの、「プロジェクト・マスクデラックス」の話をさせてください。新型コロナウィルスがまんえんしはじめた2020年春、入学式・始業式直後に、布製マスクのつくりかたガイドを添えてマスクの材料を生徒たちに届けたのですが、いいかんじにふざけた取り組みになりました。


Project Mask Deluxe

最初はやばい案件が発生したなと思ったのです。

四月冒頭のことです。仕事のあいまにふとLINEをみると、PTA役員グループに投稿多数。ん?なんかあったかなと見ると、布を寄付してくれる人が登場→マスクのつくりかた教えてあげる→ねぇこれ学校で配りたい→いいねぇ、やろうやろう→はい、もう学校からOKもらっちゃいましたぁ。ここまでがすでに完了済み。めっちゃ盛り上がっている。

ちょっと困ったかもとわたしは思ったわけです。

・不織布マスクだってウィルスは防げないわけで、布製マスクなんて竹槍でB29に立ち向かうみたいな話です。せいぜい、無症状感染者が知らないうちに飛沫をまき散らすのを多少防ぐくらいの意味しかありません。ニューヨークでの急進展をみながらびびり始めていた時期で、そのタイミングで千人針計画を無駄に主導したとか言われるのはごめんです。(布でも良いからなにしろマスクしろへアメリカが転じるのはもっと後のことです。)

・うちのPTAはお父さんたちの巻き込みには至っておらず、うっかりすると、PTA本部系母たちから女子生徒・母たちへのジェンダー偏差満載ギフトになりかねません。当校は共働きのご家庭も多く、シングルのおうちだってある。言い出したみなさんも働きに出ているのですが、受け取った側がどう反応するかはわからないわけで、ごらぁPTA専業主婦め舐めんなよとかなったらたいへんです。

・しかもこの頃すでにアベノマスクの動きが始まっていました。首相だか官邸官僚だかの思いつきを、下々がたくみに実現してしまって、な、大成功だろとぬけぬけと言わしめるような羽目にわたしは陥りたくない。そんなのはそもそも教育上よろしくありません。


とはいえ、基本的に万事丸く収めたい小市民志向のわたしとしては、せっかくの楽しみに水をかけるのかとためらい。でもそのままGoというわけにもいかない。仕方ないので、えーんきょくに上記のようなことをLINEしたわけです。

すばらしかったのはそこからでした。「そうなんですよね」とごくあっさりとすばやく返事があるやいなや、いろんな角度や情報がただちに集まって、「兵隊さんのために布製マスクをつくってしまうぞ、オーっ」になりかねない「マスク・チャレンジ」の取り組みの換骨奪胎が進んでいきました。

マスクをめぐる医学知が収集され、迷妄があばかれ、生徒が情報をさがせる仕掛けが模索されます。

こどもとマスクつくりながらいろんな話がしたいなとかいう発言にナルホドとうなずきました。竹槍をつくるのが目的じゃなくて、そこから世界に目を向けていくためのちょっとした足場を自分たちでつくりだそうとしているわけです。

マスクが手に入らなくて無力感を覚えていたけど、なんなら自分で作れるわいとわかるだけで元気がでるみたいな発言にもハッとさせられました。マスクづくりは、わけのわからん状況を手なずけて、主導権を握っていくための材料なのです。

誰かがマツコデラックスをみていて、マスクデラックスとか言い出します。イイですねぇ、竹槍布製マスク計画が脱臼をおこしていきます。イラストが得意な人が、すかさずイラスト化。もっと悪そうな顔が欲しいとかぶっ込んでみると、できる人はなんでもできる、次々にデザイン案が湧いてきます。

並行して材料の手配やら、つくりかたガイドなどがみごとなペースで着々と準備されていきます。あうんの呼吸でリモートに作業がすすみ、段取りが自生していきます。最後に、マスクのつくりかたを説明しているようでどこかそうではない、毒入りの「プロジェクト・マスクデラックス」趣意書きプリントが作成されて、マスクキットが学校へと運ばれていきました。

祝祭的な数日間でした。新型コロナウィルスとのおつきあいは当分つづき、きびしい状況に立ち続けている方たちがいるわけですが、ひとつ小さな実験ができて足がかりを得たように思っています。PTAにだって、ほんの少しの異論をまぜるだけでおもしろい場が生まれてきそうです。ものはやりよう。もうちょっとふざけてみたいものです。


プロジェクト発起人のつぶやき 堤亜沙美

それは非常事態宣言が出る少し前のこと。 はじまりはグータラ主婦の閃きからだった。

マスクない → ドラッグストアに並べば買えるらしい → しかし並ぶ根性ない → ネットで法外な価格出せば買えるようだ → そんなお金はないぞ → じゃあいっちょ作ってみるか → 意外と簡単にできるな → 家庭科の授業でマスク縫ったらよくね?

思いついたら黙っていられる性格ではなく、いろんな(フットワーク軽そうな)人に話をしてみると、いい手ごたえ。PTA本部のミーティングがあると聞き、何枚か作ったマスクを持って乗り込んだ。

勢いで校長先生に直談判をすると、PTA主体で発信するならいいですよ、とお許しを得た。それが木曜日。配布は5日後の火曜日でそれまでに全校生徒分のマスクのキットと作り方のプリントを用意しなければいけない。PTA本部の皆さんが降って湧いためんどくさい作業にも関わらず、裁断やプリント作成を引き受けてくれる。

さて話は少し変わるが、私は以前、工場から出た廃材を使って工作をするというワークショップを開いたことがあり、手元に無印良品の工場から届いた素敵なリネンの生地がたくさんあった。もともとは捨てられるものだ。しかし、この中国から届いた(なんとも皮肉ですね)廃材が少し手を加えたら生まれ変わる。今手に入らないものを自ら作ることができる。そういうのを中学生に知ってもらいたいという思いもあったのです。


さて手分けした生地は裁断された。「で、このプロジェクト名って何にしますか?」 夜のオンライン会議に、疲れていた私はふとテレビの中にいた巨体の人物と目が合い呟いた。

「マスク・デラックス」


なんと滑稽にもそのアホなネーミングが採用し、マスク・デラックスプロジェクトと銘打って火曜日の登校日にマスクキットとプリントは配布されたのでした。勢いだけの見切り発車ながらなんとか終わった。別にこれを作ったら成績がつくわけでもないし、布マスクに懐疑的なご家庭もあるだろう。

でも、今こんな時だからこそできることっていろいろあって、マスクって作れるんだってよと会話のネタになればいいと思うし、マスクじゃない何かを作ってもいいと思うし、夕飯も作ってみりゃいいのよ。そして三食作って疲れたお母さんの肩でも揉んでくれたらなお良い。

実験的に模索しながらやってみたマスク・デラックスだが、横浜のうちの学校だけではなく、ほかの地域でも広がっていけばいいなと切に願います。 バタフライエフェクトではないけれど、この小さな行動がコロナウイルスを撲滅する…なんてことがあれば、マツコも名前をもじったことをはばかることはなかろうかと。

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