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『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(集英社新書、2020年)から学ぶこと


 著者は、先日の杉並区長選挙で杉並区長となった岸本聡子さん。その著者が、水道について国際比較しながら市民運動の重要性を説く。読み終えて、こういった方が首長だと幅広く住民の意見を取り入れた風通しの良い自治体、住民主体の自治体になりそうだな、と興味を持った。

 誤解を恐れずに言えば、このような本を描く人が自治体の首長であれば、様々な立場にいる住民にとって“面白い自治体になりそうだな!”と思った。




【水道の民営化?公営化?】

 著者は、水道の民営化は、私たちの「水の権利」を奪うもの、だという。しかしながら日本は2018年に改正水道法を可決し、日本の上水道の民営化が自治体の判断で可能になるばかりか、政府が民営化を後押しする土壌を整えた。

 一方、ヨーロッパの国々では今から数十年前に水道民営化がなされたが、民営化により水道料金の値下げどころか値上げなどの問題が生じたため、再び公営化がすすめられているという。

 民営化により民間企業同士のより良い競争がなされることで水道の質や、水道料金の低下価格化などがなされるかと思いきや、いったん水道の運営権を掌握した企業は独占企業となり、住民のニーズである質の向上や低価格化を無視した利益優先政策に突き進んだ。そのため、これでいかん、ということでヨーロッパの国々では公営化の流れとなったと私は理解した。

 ところが、そのような世界の流れがあるにもかかわらず、日本は最近になって水道民営化を可能にする法律を可決した。これはおかしいのではないか、時代の流れと逆行しているのではないか、という著者の思いが読み取れる。

 ちなみに、私たち板橋区民が住む東京都の水道事業について東京都水道局に聞いたところ、東京都水道局が水道を管理しているため公営であると回答を得た。この点、2020年に東京水道株式会社という会社が誕生し、東京都水道局の事業をこの会社に委託しているが、あくまで委託ということなので、東京都の水道は民営ではなく公営とのこと。そういわれれば「ああ、そうなんですね」と未だ水道事業に詳しくない私は思ってしまうのだが、詳しくないがゆえに無理解なところも多々あるかもしれない。だから「本当にそうなのかな、今はそう(公営)だとしても今後はどうなのかな」という視点は保持しておきたいと思った。



【住民主体の自治体へ】

 さて、本書の魅力は住民が力を合わせて水道の再公営化を実現していくヨーロッパの自治体を例に、住民主体の市民運動の重要性を日本社会に呼び掛けている点にある。国やグローバル資本の方針に単純に従うのではなく、本当にそれが住民のより良い生活につながるのか、もしつながらないのであれば住民や自治体はつながるための何らかの行動をおこしたほうがよいのではないか、地域や自治体からの主体的な民主主義の実践、地域自治主義(ミュニシパリズムともいう)の実践をやってみてはどうだろうか、と日本社会に呼び掛ける。

 地域自治主義の実現のためには、国やグローバル資本に翻弄されない強い自治体にならなければならない。そんな強い自治体になるためのヒントが本書にある。

 例えば、公公連携、つまり自治体同士の連携。本書では、水道の再公営化を果たしたグルノーブル市(公)が手助けすることによってパリ市(公)の水道公営化が実現した公公連携の事例が描かれている。国やグローバル資本は強大であり、一自治体のみでは対抗できない場合もある。そんな時に同じ思いを持った自治体同士が繋がり、協力することで自治体の望むべき姿が実現できるという。

 また、強大な国やグローバル資本と比較して、ときには自治体の規模は小さい。しかしながら、かといって自治体の意思を隠し、単純に強大な国やグローバル資本の方針に従うだけで良いのか、従うことによって住民に何らかの不利益が生じるのであれば、恐れることなく自らの主張、政策をうちだせる自治体であるべきではないのか、と、“恐れぬ自治体(フィアレスシティともいう)”の重要性を説く。

 そんな強い自治体、住民主体の自治体となるためには自治体は住民の意見や意思をできるだけ的確に素早く取り入れる必要がある。ではそれはいったいどうすればよいか。

 例えば、バルセロナ市では有権者の1%の署名があれば、住民が提起した条例案を市議会に提出して可否を問うことができる「住民提案」のシステムがあるという。確かにこの様なシステムがあれば、条例案を従来の議員が提案するのみではなく住民自らが提案でき、より直接的にかつ迅速に住民の意見を議会や条例に取り込むことが可能になるのではないだろうか。  また、グルノーブル市では、自治体の予算配分の一部を議員や自治体職員ではなく、住民自らが決定できる「市民参加型予算」というのがあるという。自治体の予算はその自治体の議会を構成する議員によって決められる。しかしながら、予算の100%を議員のみで決めるのではなく、一部でも住民にも予算決定権があれば、住民はより自らの自治体や議会や政治に関心を持ち、より住民目線の自治体に発展するのではないだろうか。



【板橋区はどうだろう】

 以上、この本でいくつかの自治体の事例を知り、私たちが住む板橋区はどうだろうか、と考えた。板橋区に、地域自治主義(ミュニシパリズム)はあるか、公公連携はなされているか、恐れぬ自治体(フィアレスシティ)といえるか、住民提案のシステムはあるか、市民参加型予算はどうだ、などなど。

 もし、なんだか今の生活に生きづらさとか住みづらさとか疑問点などがあるな、と感じたら、少し周囲を見渡しながら考えてみてはどうだろうか。その原因はなんだろうか、と。そしてその原因がもし自分の住む自治体の在り方にあるのではないだろうか、と思ったら、身近なところから行動を起こしてみてはどうだろうか。

 ただ、多くの住民が日々の生活に精一杯ななか、“行動”というといかにも大それたことで大変なことで面倒で、恥ずかしいとか周囲の目が気になるとか、なかなか難しいことかもしれない。だったら行動とは言わず、つぶやき、とかでもいいかもしれない。まずはつぶやいてみる、そうしたらそれに呼応する人たちが少しずつ見えてきて、つながり、輪になり、ひょっとしたらその輪が大きくなり、形になり自らが住む自治体を変える原動力になるかもしれない。  本書を読んで、今ある自治体の姿が完成形ではなく、完ぺきではなく、住民の行動やつぶやきや何らかの意思表示次第でもっと住みやすい自治体にしていく可能性があり得るんじゃないだろうか、と思った。


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