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「絵本のまち板橋」が、学校司書を切り捨てた――単独入札4億2千万円、教育委員会は説明責任を果たせ

  • 執筆者の写真: TEAMくらデモ
    TEAMくらデモ
  • 5月15日
  • 読了時間: 9分

板橋区は、自らを「SDGs未来都市」と名乗っている。


板橋区SDGsプラットフォームのトップには、「SDGs未来都市の板橋区としての取り組み」として「絵本のまち板橋」のページが大きく掲げられている。区はそこで、印刷・製本産業の集積、イタリア・ボローニャ市との交流、ボローニャ絵本館の存在を背景に、「絵本を通じて、新たな交流と創造が生まれるまち」を掲げる。SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」と紐づけられ、「子どもの居場所に絵本を届ける」プロジェクトや「板橋区職員が選んだSDGs絵本ブックリスト」までもが、誇らしげに並んでいる。


その同じ板橋区が、2026年3月から4月にかけて、区立小中学校70校の図書室の運営を、清掃・ビル管理を主業務とする会社に、単独応札の末、4億2千万円超で委ねた。「丸投げ」とも言えるような状況である。子どもたちは、これまで毎日顔を合わせていた司書の先生に、別れを告げることもできないまま新年度を迎えた。4月の始業時点で、複数校で配置遅延・欠員が生じているとの証言もある。


確定している入札の事実


東京電子自治体共同運営の電子調達ポータル等で確認できる入札経過調書から、本件業務委託の事実関係はすでに明らかになっている。


  • 件名:図書館(学校)支援事業業務委託(複数年度契約)

  • 案件番号:2026-00281(電子調達案件 2026-00016)

  • 入札方式:希望制指名競争入札・総合評価方式

  • 開札日:令和8年(2026年)2月10日 13時35分

  • 契約業者:光管財株式会社 板橋支店

  • 契約金額:420,596,550円(税込)

  • 予定価格:非公表

  • 応札業者:光管財株式会社 板橋支店、ただ1社


総合評価方式が用いられているが、応札業者が1社のみであれば、価格と品質を比較競争する仕組みは事実上機能していない。実際、入札経過調書には光管財1社の「価格点100.00/評価点11.50/評価値111.50」だけが記載され、二位以下は空欄である。


開札日が2月10日であるという点も重要だ。区はこの時点ですでに、4月1日から区立小中学校70校の図書室業務を光管財に委ねることを決めていた。にもかかわらず、保護者にも、児童・生徒にも、現場の司書たちにも、業者交代の事実は十分には知らされなかった。



春休みに別れも告げられず去った司書たち


ある区立小学校で、図書室の司書の先生が、子どもたちに別れを告げないまま、春休みに学校を去った。


委託業者の変更によって、契約が3月末で打ち切られたためである。関係者によれば、その司書は、次年度も子どもたちと図書室で過ごすつもりでいた。本人にとっても寝耳に水の通告だった。丁寧な引き継ぎも、最後の読み聞かせも、お別れ会もないまま、図書室から姿を消した。


「児童にとっては図書の先生も担任の先生も、同じ『先生』です。こんなやり方は絶対に間違っている」と関係者は語る。


4月、子どもたちは図書室に行ってはじめて、いつもの図書館の「先生」がいないことに気づく。誰のところに行けば、あの本のことを話せるのか。次にどんな本を読めばいいのか、誰に相談すればいいのか。


学校図書室は本を貸し借りするだけの場所ではない。子どもと本のあいだに立つ大人がいてはじめて、読書センター・学習センターとして機能する。それは、区自身がSDGsプラットフォームで「絵本を通じて、新たな交流と創造が生まれるまち」を語るときに、当然の前提としているはずのことである。



受託したのは、清掃・ビル管理を主とする会社


新しい受託業者は、光管財株式会社(本件契約は板橋支店)である。同社の主な事業は建物の清掃・設備管理、警備、害虫駆除、造園、人材派遣、学校用務であり、図書館運営は事業の一部にすぎない。


同社は東京都立高校の図書館管理業務を以前から受託しており、その運営状況については、については、現場関係者や利用者の側から繰り返し問題が指摘されてきた(2016年の現場ルポ教育評論ブログ「あすこまっ!」2017年)。


業者の問題は別途検証されるべきである。 ここで問わなければならないのは、こうした業者を区立小中学校70校・4億2千万円超の発注先として選定した、板橋区教育委員会の判断と、その判断に至る発注プロセスである。



あまりにも杜撰な時系列


何が起きていたかは、時系列を並べれば一目瞭然である。


  • 2月10日:開札。光管財株式会社板橋支店が単独応札し、税込4億2千万円超で落札。

  • 3月下旬:既存業者との契約が終了(現場の司書たちは別れを告げる間もなく現場を去る)。

  • 3月28日:光管財が Indeed で「板橋区の小中学校図書室での司書」の募集を開始。

  • 4月1日:始業日。新年度のスタート。司書未配置の学校あり。

  • 4月24日: Indeed の募集締切。


落札決定から始業日まで1ヶ月半――司書資格者を70校分そろえるには十分な期間があったはずだ。だからこそ光管財は入札に応じたのだろう。しかし、求人広告が Indeed に出たのは3月28日。新年度始業に司書配置が間に合うはずがない。実際、4月時点で司書未配置の学校が出ている。


提示時給は1280円。司書資格を必須条件としながら、専門職への報酬として決して高い水準ではない。


2月10日に業者が決定していたにもかかわらず、現場には3月末まで業者交代の事実が共有されず、新年度始業に司書が間に合わない。この一連の運用は、業者にだけ問題があるのではない。むしろ、問題にすべきは、発注者である板橋区教育委員会の現場掌握力と業務継続性への配慮であろう。



同じ板橋区で、似た構図がもう一度


競争入札が事実上機能しなかった案件は、本件が初めてではない。


くらデモが連載で追ってきた志村小学校・志村第四中学校の小中一貫型学校改築工事(契約金額124億円超)でも、入札は競争として実質機能していない。2回の入札不調を経た令和7年2月の3回目で、応札2社のうち1社が辞退。結果として実質単独応札となり、村本建設が予定価格との差わずか1%未満で落札した(詳しい経緯はくらデモWeb「小中一貫校」カテゴリーを参照されたい)。


そして今回、4億2千万円超の図書室業務委託でも、応札したのは光管財株式会社板橋支店ただ1社だった。


ただし、両案件の入札方式は異なる。志村小工事は「条件付き一般競争入札」、図書室業務委託は「希望制指名競争入札」である。前者は条件を満たせば広く参加可能な方式であり、後者は区が指名した業者の中から希望者のみが応札する仕組みだ。したがって、二件の単独応札は、同一のメカニズムから生じたものではない。


しかし、それでも両案件には共通点がある。


いずれも板橋区教育委員会による発注であり、結果として競争性が十分に働いたのか疑問が残る形となった。いずれも契約金額は予定価格に近接し、現場や区民への事前説明もきわめて限定的だった。


入札方式が異なるにもかかわらず、同様の結果が繰り返されている。この事実は、個別の制度設計だけではなく、発注主体である板橋区教育委員会の発注プロセスそのものに、検証すべき課題があることを示している。


とりわけ、今回の図書室業務委託は希望制指名競争入札であった。指名業者の範囲や選定理由、応札希望業者の扱いについて、区側が大きな裁量を持つ方式である。区はどの業者を指名し、なぜ結果として単独応札に至ったのか。その経緯について説明責任を負っている。



板橋区教育委員会への、避けて通れない三つの問い


以上を踏まえて、板橋区教育委員会に対して三つの問いが生まれる。


第一の問い:板橋区教育委員会は本件の希望制指名競争入札に、どの業者を指名したのか。前年度まで区立小中学校の図書室を運営してきた業者は、今回の指名業者に含まれていたのか。含まれていたうえで応札を見送ったのか、そもそも含まれていなかったのか。仕様書の条件変更、予算単価の引き下げ、その他、既存業者の応札意欲を削ぐ事情はなかったのか。


第二の問い: 単独応札の状況下で、板橋区教育委員会は光管財の何を評価して落札を決めたのか。総合評価方式とは、価格と品質を比較して落札者を決める仕組みである。比較の対象となる他の応札者がいないなかで、価格点100.00という満点と、評価点11.50という採点に、どのような実質的意味があるのか。専門職としての司書をそろえる体制や、選書・レファレンス・読書指導の質を保証する仕組みは、どのように審査されたのか。


第三の問い:なぜ司書配置が間に合わなかったのか。開札の2月10日から始業の4月1日まで一ヶ月半以上の時間が妥当だったのか。板橋区教育委員会は、光管財の人員配置計画を契約締結時に確認したのか。確認したうえで承認したのか。確認していなかったのなら、なぜ確認しなかったのか。


これら三つの問いを、志村小学校・志村第四中学校改築工事の入札経緯と重ね合わせて読むとき、問題は本件業務委託の枠を超える。これは、板橋区教育委員会の発注プロセス全体の透明性と説明責任にかかわる問題である。


板橋区教育委員会は、これら三つの問いに、公式に答えていない。区のウェブサイトには、業者変更の事実関係や経緯についての記載はほとんど見当たらない。SDGsプラットフォームでは「絵本のまち板橋」を高らかに宣言しながら、その絵本を子どもに手渡す現場で何が起きているかについては、区民に向けて語らない。



「絵本のまち板橋」と呼ぶ前に


板橋区が「絵本のまち板橋」を語るのなら、その看板の足元にいる学校図書室の司書一人ひとりに、まず敬意を払う自治体であってほしい。


子どもに本の楽しさを伝えてくれる司書を、アルバイト探しと同じ仕組みで決め、図書室業務の継続性を二の次にして、安かろう悪かろうで落札業者に丸投げする。そんな板橋区に、SDGs未来都市として「絵本のまち」を世界に向けて語ってほしくはない。


4億2千万円超の業務委託を、現場の業務継続性を犠牲にして単独応札の一社に発注し、開札から一ヶ月半以上ありながら始業に司書配置が間に合わない事態を招いている。これを「学びの質を舐めている」と言わずに、何と言うか。


そして二度続いた単独応札の構図に対し、板橋区教育委員会には、区民が納得できる説明を行う責任がある。



くらデモは、すでに動き出している


くらデモは本記事の公開に先立ち、板橋区情報公開条例にもとづく公文書開示請求を、2026年5月15日付で板橋区に提出した。


請求対象は、本件業務委託にかかる入札公告、指名業者一覧および指名業者選定理由書、入札説明書、業務委託仕様書、光管財株式会社板橋支店が提出した技術提案書(人員配置計画、司書確保計画、業務遂行計画を含む)、評価委員会の議事録および評価結果報告書、契約書、業者選定にかかる起案書・決裁文書・関係課内協議録等である。


開示文書が出そろい次第、第二報を公開する。


「イエナプラン」の看板を降ろしたように、「絵本のまち板橋」「SDGs未来都市」の看板を降ろすことはないだろう。だが、「絵本のまち板橋」「SDGs未来都市」を名乗るのならば、それにふさわしい区政を、私たちは要求していく。


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